小原部長
磯部建設株式会社(栃木県)
100年前から変わらない安全の心得
無事故を続けることが大切
好成績・好業績の秘訣シリーズ第11回は、磯部建設株式会社の小原部長に、安全についての考えと会社で行っている安全対策について伺った。
根気よく安全活動を続ける
─── 前回、福田常務さんに「何を一番大切にして成功されていますか?」
と伺ったところ、安全対策を何よりも大切にしているとお話をされていました。
小原部長
私もやはり安全が第一だと思います。巷でよく言われる「無事之名馬」ということでしょうか。 例えば、いろいろな場所で安全の話をするときに、地方競走馬の「ハルウララ」と、 元ニューヨークヤンキースの「松井秀喜選手」の話をします。
─── それはどういう話なんですか?
小原部長
ともに私見ですが「ハルウララ」はなぜ有名だったか?それは、「勝てなかった、負け続けた。」からです。
しかし負け続けられたのは、つまり「出走を続けた。」からです。
怪我や事故が無く出走を続けることができた。それが大切なことだと思います。
「松井秀喜さん」という国民栄誉賞を受賞されるような人ですが、彼は手首の怪我で連続試合出場記録が
途切れてしまいました。復帰後の膝の故障などがありましたが、ワールドシリーズでMVPを受賞しました。
しかし、実はもっともっと活躍できたのではないか、もっともっと何倍もワクワクさせてくれたのではないかと。
みなさんも、私も、怪我をしたり事故があったりしたのでは、元も子もなくなるという話をときどきします。
会社という組織にしても同じだと思います。例えば目標を立て、より良い評価を頂くとか、
経営計画を達成するなどいろいろと頑張りますが、ひとたび事故が起きるとほとんど「水の泡」
になってしまいます。やはり事故・災害が無いことがとても大切です。
安全管理活動ということに関して、私はもう10数年以上前とほぼ同じことをやったり、 話したりしていると思います。最近、産業安全運動100年行事の中で知りましたが、 日光の古河さん(古河鉱業会社 足尾鉱業所、通称 足尾銅山・現=古河機械金属 足尾事業所) の当時の小田川所長が、米国から「Safety fast」という言葉を持ち帰り「安全専一」と訳し、 安全運動を始めました。後に「安全第一」運動になるのですが。 その、安全運動を始めてから昨年で100年目ということでした。 足尾鉱業所(銅山)で大正四年に作った『鉱夫の友』の付録で「安全専一」というタイトルの保安の心得の 小冊子の復刻版を頂きました。それを見ましたが、当時の日光労働基準監督署の高橋署長さんが仰っていた、 「安全の心得の内容は、全くと言っていいほど現代に言われている心得(マニュアル)と変わっていない。」 と、これは非常に励みになりました。
100年前とあまり変わらないということは、私たちがやったり、言ったりしていることが
10年位で何も変わらないように感じるのは、仕方がないのかなと感じています。
もちろん「心得」は変わらないが、実際の労働災害は確実に減少を続けています。
諦めずに、根気よく繰り返し安全活動を続けることが大切だということを感じています。
安全行動宣言バッジで一人ひとりが安全を意識
─── 胸のバッジは珍しいタイプですね。
小原部長
「安全行動宣言」運動といいまして、労働基準監督署が主唱しておこなっているものです。
日光労働基準監督署の署長さんに勧められ、素晴らしいことと感じました。
9月27日、日光労働基準協会・専門部(労働安全部)委員会の席で署長さんに説明されましたが、
ちょうど4日後の10月1日が我が社の恒例の安全衛生大会の予定でした。
タイミングも良く、説明の後でその場で即150枚購入させて頂きました。
手をあげてすぐに購入したのは我が社が一番で、その場の在庫は無くなりました。
私はこのバッジの「私の安全行動宣言」という所がポイントだと思います。
社内で「安全管理は安全部が・・・・。」というようなことがチラホラ聞こえてきますが、
そうではありません。けれど、「安全を実現するのは自分自身だ。」ということを上手に表現
できなかったものですから、このバッジ(カード)に手伝ってもらおうと、これを付けてもらうことにしました。
「安全」・「危険」を一番意識しなくてはならないのは自分自身ですよ、ということです。
─── 全員着けられているんですか?
小原部長
社長をはじめ全社員に配布しました。大会に参加した協力業者にも配布しました。 さらに何社かの協力業者にも声をかけ希望をとり、相当数配っています。 もちろん費用は会社で負担しています。強制的に配布しようかなと思いましたが、 現場の作業員さんなどから「狭い作業場での移動の時に引っ掛けて、ちぎれたりしてしまう。」 という声がありまして、すこし躊躇しているところがあります。 配布しても、しまい込んでしまうなら逆効果ということになりますから。
建設業界は、下請け、二次あるいは三次下請けという重層請負構造ですから、
二次、三次下請けとなると、実感として安全管理は元請けがやっているからその通りにやっていれば、
という甘えのようなものを感じます。
事故、トラブルがあった時には元請会社が対応してくれるという意識があるようです。
実際ある程度手を出して手伝わなくては、安全管理活動をできない部分もあります。
そこで、社内で巡視・指導などの実務を行っている社員には「指導から実務補助をやりすぎないように、
やり足りなくないように心がけて。」と言っています。
やりすぎると結局、他人事になってしまいますし、やり足りなければ身につくのに時間が掛かり、
事故・災害が心配です。適度ということを大事にして「私達はなんでも精一杯手伝いますよ。
応援しますよ。教えますよ。」という意気込みでいることです。そんなことを心がけてやっております。
講師を通して自分も学ぶ
─── 安全指導は直接小原部長がされているのですか?
小原部長
小さな所帯の会社ですからもちろん私もします。
部内でのもう一人の社員には作業所のパトロールとワンポイント指導・教育を週2日以上実施ということで
計画しています。そのほかにも作業所毎の行事があります。
私も週2日は現場に出る計画でいますが、実際には月に3~4日程度しか出られないことがあります。
例えば、業界団体の役割等が入ってきます。建設業労働災害防止協会の安全指導員や
安全教育講習会の講師やそれに関連したことです。その他の災害防止団体の会合などもあります。
それらで予定が詰まってしまうことがあります。
また、社長が安全部長としての勉強にもなるし、業界の担当、役割としても講師などの依頼は
「請けてこい。」と言ってくれました。これが年に4~5日はあります。
─── それはどんな講習会ですか?
小原部長
「安全管理教育講習」という内容になります。栃木県内の建設業の現場で統括管理をする技術者や、
職長としての職方などが出席し、安全講習・安全教育をするのですが、これが最低でも年に3回あります。
それらに関する打ち合わせ会議など、そのほかに臨時に入ってくるものもあり結構負担になります。
しかし自分としてのメリットが無いわけではありません。講師をしますと間違ったことを話す訳にはいきません。
けれど、自分が知らなかったことや、色々な法律、労働安全衛生法や決まりごと、
通達などは年々変わってきますから、絶えず勉強しなければなりません。
つまり講師役の自分が勉強するきっかけにもなっている訳です。
結局は自分の日常業務に反映されるので、学習するきっかけとしてはいい機会・役割だと受けとめています。
自宅に帰ってからも、夜遅く、あるいは早朝、また休日でも勉強したり準備したりの
自己研鑽と考え、取り組んでいます。
講師の役目はきついですが、一方では気持ちよくやらせてもらっています。
なかなか大変ですけれど、お陰で色々なモノが積み重ねてこられたと実感しています。
─── 教える方が一番学ばれている訳ですね。
小原部長
そうです、私自身が一番学んでいる訳です。それが自社での日常の業務にも反映できています。 キツイけれども、自分にとってとてもプラスになると思います。 まさに育てられているという感じです。偉そうに話をしておりますけれど、 逆に育ててもらっているのは自分の方だと、常に感じています。
─── 今回は貴重なお話しをありがとうございました。
(取材・まとめ ワイズ)
磯部建設株式会社 (いそべけんせつ) 栃木県日光市に本社を置く総合建設会社。昭和25年創立の栃木県内大手企業のひとつ。 栃木県日光市今市1525番地 |