代表取締役社長 佐々木宏明氏
株式会社 橋本店(宮城県)
「モノをつくる前に人をつくる」
社長が自ら現場を確認
好成績・好業績の秘訣シリーズ第5回は、前回に引き続き、宮城県仙台市に本社を置く株式会社橋本店の佐々木宏明社長、そして佐藤茂夫常務に、主に社員の教育について伺った。
社員教育で大事なのは「生き方について」
─── 社員教育はどのようにされているのですか?
佐々木社長
社員研修の様子
今、社員教育でやっているのは、人の生き方についてですね。 現場の技術的なことについてもやっていますが、一番大きいのはやはり、 「人が仕事をして、どう生きていくか」ということです。
私たちが一番大事にしているのは、地域の人に名前を残してもらうような仕事をするということです。 地域の人たちに何が出来るかを常に考えて仕事をすることです。 そのためにはまず、当たり前のことですが、現場の中を整理整頓し掃除をする。ゴミ拾いや除草をする。 町内会の人と相談して、何が出来るかを本気になって考える。 そういう貢献をして現場を変えていきましょうというのが、今の一番の目標です。
そうすることで、いい物と悪い物の差が出てきます。 トイレが汚い現場とキレイな現場では何が違うか。細かい所を見て汚い所が分かるというのは、 キレイなモノをちゃんと作れるということです。見栄え出来栄えに配慮が出来る。 面倒くさいから土足のまま入るのではなく、靴を脱いでトイレをキレイに使うということに、 建物に対する思いやりが出てくる。そういう精神的なことが、建物をつくるためには非常に大事なのです。
「現場だからいい」はない
佐々木社長
山の中に咲くユリは、誰も見ていなくてもキレイな花を咲かせます。私は現場の人間もそれと一緒だと思います。 誰も見ていなくても、精一杯その場所でキレイなモノをつくっていく、そういう一途な姿勢が橋本の本来の姿勢です。 現場だからいいんだ、というのはありません。現場も本社も一緒です。
現場は現場の所長だけが教育すべきだというのは、間違っています。 橋本のルールとして教育していかないと駄目なのです。 以前、会議は「現場が忙しいから出られません」ということが許されてきました。 私が社長になってからは、それは駄目だ、現場が休みの日に会議をやろう、ということになりました。 第2土曜日を会議の日にして、毎回出欠もとっています。
『「会議の日」のお知らせ』より
勤勉さや真面目さも勤務評価に値するんですよね。 忙しい現場の工程管理を上手くやって、その日は会議だから出てくる。 そういう姿勢はモノをつくるより大事です。
社長が自ら現場をまわる
佐々木社長
現場が我々の原点ですので、経営者が現場に足を運ぶことが大切です。 社長だから行かないということではなく、必ず自分が行って、つくる過程を見ていく。
現場にかけられるスローガン
ただ、中にはまだ「社長が来るから」と前の日に掃除をする現場もあります。 私は、そういう現場は見れば分かりますと言っているのですが。 前の日に掃除する現場と毎日掃除している現場では、おのずと違ってきます。
橋本と別の会社との違いは、そこで仕事をしている人間の心構え・気構えだと思います。 モノをつくればいいということではなく、過程を大事にする。品質とはなんなのかを考える。
土木を含めて、建築はほとんどコンクリートです。これの出来栄えはやはり面(つら)ですよね。 それを仕上げるためには一体どうしたらいいのか、弊社でも一番悩んでいる点です。 外部から講師を選んで、半日かけて月に1回研修をしています。それを現場で実践し、 上手くいった現場に発表会をさせ、別な現場でも共有しています。 自分だけ分かればいいということではなく、会社の財産として、 その技術力が全員に行きわたっていないと何にもならないのです。 そのために色々なことをやっていることが、今の橋本のいいスタイルになっているのではないでしょうか。
「モノをつくるのは人だから、人をちゃんとつくる」
経営者パトロールの様子
佐々木社長
私は以前から、「モノをつくるのは人だから、人をちゃんとつくる」という考えを持っています。 現場では所長が1人で指揮をとっていますから、誰も見ていない部分もできてしまいます。 ですから、そこでその人が「ちょっと誤魔化してもいいな」という気持ちになってしまったら、 どうにでもできてしまいます。
所長の人には、型枠大工でも左官でも、「会社」を頼むのではなく、「人」を頼むようにと言っています。 その会社の中で優秀な人をちゃんと見ておいて、あの人をよこしてくれと頼むようにしろ、 それが品質に関わってくるんだ、と。ですから、人を見る目線なんです。 いいモノができるかどうかは、よい人を所長がちゃんとみているかどうかにかかっています。
利益は後からついてくる 良いモノをちゃんとつくって評価してもらうことが一番
─── どのように社員の方を評価されているのですか?
佐々木社長
まず一番に、身なりです。キレイな作業着を着ているかどうか。 それと、会議の出席率、ちゃんと真面目に参加しているか。あとは、社会から評価をちゃんと受けられるか。 優良工事などです。何点以上はAランク、何点から何点はBランク、というようにして、 民間発注の場合は部長や役員が点数をつけます。あとは、現場でのコミュニケーションを上手くやって、 関連した仕事をとってくるようなことがあれば、プラスアルファで評価します。 みんなの前で表彰して、優良工事については手当てを付けています。
佐藤茂夫常務
佐藤常務
国交省の工事での平均点76点を維持するために、80点に届かなくても評価しています。 77~79点の場合は、金額は小さいけれども手当てを出してもらっています。 「平均点をとれ」という意識、それが最終的には、会社の力になります。
─── この現場でいくら、というような、利益の話ではないんですね。
佐々木社長
そうですね。まぁ利益は後からついてくることです。 確かに企業ですから、利益を追求していかなければいけません。 ただその前に、良いモノをちゃんとつくって評価してもらうということが一番です。 それがちゃんと出来ていないと。良いモノと悪いモノとゴミと一緒の中で仕事している現場は、必ず事故が起きます。
現場のトイレは「土足禁止」
常にお客さんの社会から見られているという意識を持つことが重要です。 現場で仮囲いをしているから何をやってもいいだろうというのではいけません。 逆に窓をオープンにして現場を透明のプラスチックフェンスにして、 道路を歩いている人から見えるようにするように言っています。
─── 現場もキレイに整理整頓されていましたし、トイレの中までキレイでした。
佐々木社長
我々はだいぶ変わってきていると思いますが、まだまだですね。
協力業者も含めて、橋本の現場はそういうやり方でやるんだということが浸透していかないと駄目だと思います。
くじらの家・SE構法-優良住宅への取り組み
佐々木社長
SE構法/広い空間と自由な間取りが可能に
今、くじらの家というのをやっているんですが、SE構法という手法をつかって、 構造計算できる耐震の木造戸建て住宅をつくっています。これは橋本しかできないですね。 SE構法とは、集成材と専用金物を使って、長野のエムウェーブを造った構法です。
佐藤常務
これですね(右写真)。壁がいらなくて、柱で持つ、という。
佐々木社長
だから空間がとれるんです。
─── SEとは何の略ですか?
佐々木社長
セーフティ・エンジニアリング(Safety Engineering)、安全な、地震に強いということですね。
大工さんと木造住宅の競争をしたって、結局敵わないですよね。 ですから、橋本じゃないと出来ない木造住宅は何かと考えて、これに辿りついたのです。
地下に蓄熱槽もつくってあります。夜間電力を使って、下からホンワカと暖かいように。 ストーブのいらない暖房です。
─── ヒートポンプですか。地球温暖化の防止のために今、国が力をいれている住宅ですよね。
耐震性もいい、長期も持つ、温暖化に対応できている。国の方針にあった住宅です。助成対象になったものもあります。
─── 今回は貴重なお話と資料を提供して頂き、ありがとうございました。
(取材・まとめ ワイズ)
株式会社 橋本店 (はしもとてん) 宮城県仙台市に本社を置く総合建設会社。明治11年創業の東北を代表する老舗大手企業のひとつ。 宮城県仙台市青葉区立町27-21 |