2016/05/24 重層下請構造の改善と民間工事指針の方向性を議論 【中建審 H28第5回 基本問題小委員会 その1】
国土交通省は5月23日、中央建設業審議会・社会資本整備審議会産業分科会建設部会
基本問題小委員会(委員長・大森文彦東洋大法学部教授)の平成28年 第5回会合を開催した。
同委員会は、横浜市のマンション基礎ぐい工事問題の背景にあると考えられる建設業の
構造的な課題を検討するために、
1月から再開されており、
今回の会合では直接的な課題として以下7点が議論された。
(1) 重層下請構造の問題点
(2) 民間工事における発注者・元請等の請負契約等の適正化
(3) 施工に関する適切な情報開示のあり方
また、高齢化の進展に伴い、施工能力のある中小建設企業の廃業が見込まれる状況下、
(4) 中小建設企業の企業再編の促進
について議論されたほか、
(5) 軽微な工事(リフォーム工事等)に関する対応の検討
(6) 中長期的な担い手の確保・育成
(7) 建設工事の最近の問題事例
についても報告・議論が行われた。
※(4)~(7)については、”その2”に掲載いたします。
【横浜市マンション基礎ぐい問題の背景にある課題】
(1) 重層下請構造の問題点
前回までの議論を踏まえ、建設業における重層下請構造の問題点として
事務局より以下の4点が報告された。
①下請の重層化が施工管理や品質面に及ぼす影響
施工体制が複雑化により、施工管理や安全面に影響が生じ、工事の質や安全性が低下するおそれ。
(責任の所在の不明確化・管理の不行き届き・円滑な連絡調整の支障等)
②下請の対価の減少や、労働費へのしわ寄せ
・中間段階の企業が増える結果、下位下請の施工の対価の減少や、労務費のしわ寄せのおそれ。
・下位下請の設計変更や追加工事に関する契約上の処理が不明瞭になるおそれ。
③施工管理を行わない下請企業の介在
・取引契約上の介在のみで必要な施工管理を行わない企業が存在することで、
施工に関する役割の不明瞭化等の問題が増大するおそれ。
④下位の下請段階にみられる労務提供を行う下請の重層化
・工事の繁閑に対応する目的から、直接施工に必要な技能労働者を雇用から
請負へ外部化(非社員化)する動きが常態化し、
下位の下請段階において、
同業種間で労務提供を行うための重層化が進行。
(技術者の技量や就労状況の把握・管理が困難・技能者の地位の不安定化・
就労環境の悪化のおそれ・雇用か請負かあいまいな就労形態を招くおそれ)
上記の諸問題に対し、当面の対策案が提示された。
・施工を行わない下請け企業の排除
→ 一括下請負禁止の徹底・主任技術者の専任配置などの徹底
・専門工事業者が技能労働者を社員として雇用しやすい環境整備
→ 公共工事の施工時期の平準化や、繁閑調整のための環境整備・
建設キャリアアップシステムの整備・社会保険未加入対策の徹底
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(2)民間工事における発注者・元請等の請負契約等の適正化
民間建設工事の施工上のリスクについて、事前協議を行わずに実際にリスクが発現した場合、
円滑な工事施工に支障を来すことから、
協議項目を整理することを目的に、
民間建設工事の適正な品質を確保するための指針(民間工事指針)を策定方針について報告された。
指針の概要は以下の通り。
・建設工事に関わる関係者の基本的役割
・事前準備の重要性
・関係者間の協力体制の構築
・関係者間の協議項目
・適切な工事請負契約の締結、履行
(3)施工に関する適切な情報開示のあり方
マンションの将来の修繕や災害等の不測の事態に備え、居住者・管理組合側に対し、
施工に関する情報が幅広く保有されていることが有益であるという観点から、
建設業者が居住者・管理組合に対し、マンション管理適正化法に基づく情報提供
(建物等に関する11種類の図書※)を行い、かつ、重要工程において作成された
施工に関する情報(施工計画書・施工要領書・完了検査書類等)について、
一定期間保存することを規定する必要の有無について報告された。
※①付近見取図 ②配置図 ③仕様書 ④各階平面図 ⑤二面以上の立体図
⑥断面図または矩形図 ⑦基礎伏図 ⑧各階床状図 ⑨小屋伏図 ⑩構造詳細図
⑪構造計算書
※実態では建築許可関係書類(中間・完了検査関係書類等)、
施工関係書類(主要な下請企業を含むメーカーリスト、くい施工報告書等)、
工事管理関係書類等が幅広く提供される。
委員からの意見は次のとおり
重層下請構造の改善について
〇大森委員長(弁護士・東洋大学法学部教授)
他社からの人手の融通方法(JV等)について、労働法ではどのような扱いになるのかは
研究の余地があり整理が必要だと思う。
もっと広げると、今の建設業法では、建設工事は全て請負という形でまかなえるというのが
前提になっているが、請負でなければならないのか。
重層下請構造を考える上で通過せざるを得ない問題である。
〇田口委員(全国建設労働組合総連合書記次長)
最近の傾向で気になっているのは、一人親方が42万人になっており、
一人法人がその中でもかなり増えている。
重層構造の改善を進めている中で一部逆の自体が起きている。
一人法人が急激に増えており、そうすると逆に重層化が進む。
法人だが現場では労災は一人親方労災特別管理に入っており、現場では労働者として働くという
複雑な状態。
実態を把握しながら重層化を改善するか進めるべき。
また、優秀な技能労働者を雇う企業が客観的に把握され、
かつ労働者を雇っている企業に対して
評価をするという仕組みを考えなければ正規雇用者を増やすというだけでは、
一人親方という状態をストップすることはできないのではないか。
〇勝見委員(一般社団法人日本建設業連合会総合企画委員会政策部会部会長)
工事内容の高度化が進み、従来の建設業法が想定している元請・一次下請・二次下請だけで
建物が出来なくなっている。
材料の提供・技術のサポートで一次、二次に入ってくる人がいないと、設計もできず
施工もできないという実態がある。
今の建設の生産体制全体を建設業法でカバーしようというのであれば、元請関係では
カバーしきれないようになっている。
横からのサポートがないと、建設が完了しないという実態があることを理解するべきである。
民間工事指針の策定方針について
〇伊藤委員(一般社団法人全国建設業協会専務 岩田委員代理)
実際の施工段階であらかじめの予測が困難な場合もある。
その意味で、施工途中にリスクを関係者間で早期に解決することが適正な施工を行う上での
重要な要素になる。
施工途中の協議の必要性を明記すると良い。
品質確保について、受注者側が品質確保を充実する受注者責任がしっかりと果たせる
請負契約の手続きが行われるよう、
受発注者間の指針の充実として検討していただきたい。
〇勝見委員(一般社団法人日本建設業連合会総合企画委員会政策部会部会長)
関係者間の協議項目で、民間工事指針として打ち出すのであれば、協議項目をチェックリストとして
項目化するだけではなく、それぞれの項目について
リスク負担の基本的な考え方を
織り込むべきではないか。
標準的な考え方を示し、契約条件の協議の出発点となれば施工者側からはありがたい。
施工に関する適切な情報提供のあり方について
〇齊藤委員(横浜市立大学国際総合科学部教授)
ディベロッパーと建設業者がどのように責任を持ってもらえるのか心配される人が多いが、
契約の内容を消費者にどの程度見せるべきなのかも踏まえて検討を進めていければと思う。
心配しているのは、建物等に関する11種類の図書の書類がどの程度、また書類の中身が
いざという時に使えるのかということが問題かと思う。
また、マンションを買った方はディベロッパーに問い合わせることにあるが建設業者が
いくら図面を持っていても分譲会社に問い合わせてということになるため、
管理組合の方が
どうすれば情報を得られるかというツールを確保することが必要。
図書の保存期間については10年ということになっているが、10年以上たってから問題が
明確になることが多い。
新築時の情報であれば、どこかに電子化して登録するシステムを活用し、
図面を効率的に使われるよう考えるべき。
(その2に続く)